第44回 憲法に財政の規定ってあるの?

  いよいよ憲法の勉強もあとわずか、今回は、憲法83条から91条にわたって規定されている財政について、条文を負いながら解説していきます。
行政書士試験での出題頻度はそれほど高くありませんが、条文にはしっかり目を通してください。

 

Ⅰ.財政立憲主義

憲法44-1

  そもそも財政とは、国家がその任務を行う上で必要な財力を調達・管理・使用する作用のことです。具体的には、税金の賦課や徴収、国費の支出、国の財産の管理――などのことです。

  83条では、国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使すると定めています。これは、国の財政を国民の代表機関である国会の管理統制下に置くという、財政面での民主主義の原理を明らかにしたものです。このような原理を財政立憲主義または財政民主主義と言いますので覚えてください。

  国会の管理統制下に置くと説明しましたが、必ずしも財政を処理する行為の一つひとつについて国会の議決が必要ということではありません。全体として国会のコントロール下にあればよいと解釈されています。

 

Ⅱ.租税法律主義

憲法44-2

  84条は、租税を新設、又は従来の税制を変更するには、必ず法律の根拠がなければならないことを規定しています。このような原則を租税法律主義と言います。これも覚えてください。

  これには少し歴史があります。近代市民革命は、専制君主による恣意的な租税の賦課からの解放闘争という面も持っていました。市民革命によって新たに成立した近代憲法では、租税の賦課・徴収については、租税を賦課される国民の代表の意見が反映されなければならないという思想が生まれました。よく聞く言葉に「代表なければ課税なし」がありますが、まさにこの思想です。租税法律主義は、この代表なければ課税なしの思想に由来する原則です。

  租税法律主義は、憲法30条の規定中にもありましたが、30条の規定は納税が国民の義務であるとの観点からの規定でした。それに対して84条は、租税の在り方を決めるのは国民の代表から成る国会であるという観点からの規定です。

  租税法律主義には次の2つの重要な内容があります。

①課税要件法定主義

②課税要件明確主義

  ①の課税要件法定主義というのは、課税される条件(課税要件)と課税手続について法律で定めなければならないという原則です。課税要件とは、納税義務者は誰なのか、課税物権は何なのか、税率は何%か――などです。課税手続とは、いつ、どのように税金を納めればよいのか、などです。

  ②の課税要件明確主義というのは、課税要件と課税手続を定めた規定は、誰でも分かるように明確なものでなければならないという原則です。税制の中心である課税要件や手続が人によって解釈がまちまちにならないような明確な規定でないと、行政権が恣意的な課税の賦課・徴収を行うことも可能になってしまい、租税法律主義の趣旨が損なわれてしまう危険もあるからです。
また、国民にとっては、いつ、どのような条件の下で課税されるのかを予測できることも大切とも言えます。

  今日の社会では、税制は非常に複雑になっているので、租税に関する全部の事項を法律で規定することが事実上困難になっています。そこで、国会のコントロール下に置かれていればよいという解釈から、実際には、多くの場合で委任に基づき、命令(省令)などによって課税についての細目は決められています。

  上級行政庁から下級行政庁へ対する命令を通達と言いますが、通常、通達は、行政庁内部のみの拘束力しか認められず、一般国民を拘束するものではありません。ところが、税務行政においては、しばしば、通達によって税法の解釈や運用基準が示されます。

  また、地方公共団体では、条例によって租税を課すことがありますが、通説では、84条にいう法律には、条例も含まれるとされています。つまり、地方公共団体においては、租税条例主義がとられていることと解釈できます。

 

Ⅲ.国費の支出

憲法44-3

  85条は83条に定められた財政立憲主義の理念を、支出の点について明確にしたものです。

国費の支出とは、国の諸般の需要を充たすための現金の支払いのことです。国費の支出についての議決は86条に規定の予算に対する議決という形で執行されます。

  国が債務を負担するとは、国の財政上の需要を充たすのに必要な経費を調達するために債務を負うことです。
典型的な例が、国債の発行です。国の債務負担についての国家の議決は、予算に対する議決の形をとる場合と、法律に対する議決の形をとる場合があります。

 

Ⅳ.予算

憲法44-4

  予算とは、一会計年度における国の歳入・歳出の予定的見積りを内容とする国の財政行為の準則のことです。予算の種類は、①本予算、②補正予算、③暫定予算――の3つです。 

②の補正予算はさらに、追加予算と修正予算に分かれ、追加予算は、本予算成立後に法律上又は契約上、国の義務に属する経費の不足を補う場合や、本予算作成後に生じた事由に基づき特に緊急に必要な経費の不足に対応するために予算を追加する場合をいいます。修正予算は、本予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合を言います。

③の暫定予算は予算が新会計年度の開始前に成立しない場合に、内閣が必要に応じて暫定的な予算を組んで国会に提出するものです。暫定的なものですから、当然、その年度の本予算が成立した時には、効力を失います。暫定予算に基づいて執行された措置は、本予算に基づいて行われたものとみなされ、その年度の本予算に組み込まれて国会の議決を事後的に受けます。 

 

 予算は内閣が作成して国会に提出し、国会の審議を受けます。この場合60条で学んだように衆議院に先に提出しなければなりません。

国会が提出された予算案に対して可決・否決できることは当然ですが、提出された予算案に修正を加えることはできるのでしょうか?

原案に対して廃除・削減を行う減額修正については、国会に無制限の修正権が認められています。しかし、原案に対して新たな条項を設けたり、条項の金額を増額する増額修正に関しては、原案と同じものとは言えなくなるような大幅な増額修正の場合は認められていないようです。

 

Ⅴ.予備費

憲法44-5

  87条では、予見し難い予算の不足に備えて予備費を設けることができることを規定しています。ここでの予見し難い予算の不足は、次の2つが考えられます。

①予算超過支出:予算にある費目の金額が不足になった場合

②予算外支出:予算に新たな費目を追加する必要が生じた場合

  憲法では規定されていませんが、財政法により予備費は予算の中に組み込まれて議決されることが定められています。

  予備費は、87条1項で内閣の責任で支出し、2項で事後的に国会の承認が必要とされることが規定されていますが、国会の承諾が得られなかった場合には、内閣の政治的責任問題は発生するものの、すでに行われた予備費の支出の法的効力には影響しません。

 

Ⅵ.皇室財産と皇室費用

憲法44-6

  88条の趣旨は、皇室の国会による民主的コントロールのため、皇室財産を国有のものとし、8条とともに皇室財産の民主化を図ったものです。

  皇室財算とは、天皇の財産および皇族の財産の総称です。88条にある皇室の財産とは公的な性格の強い財産のみで、よく知られた天皇家先祖伝来の三種の神器などは、これに当たりません。

  また、皇室財産の国有化を規定していますが、皇室が私有財産を持つことを禁止しているわけではありません。上記の三種の神器などの私有財産や、予算に基づいて国庫から支出される資金を元手に、皇室が私有財産を保持し運用することも可能です。ただし、財産運用についても国会のコントロールが及ぼされることになっていますが…。

 

Ⅶ.公金支出の制限

憲法44-7

  89条の前段は、公金その他の公の財産を宗教上の組織や団体のために使ってはいけないことを規定しています。これは、20条で学んだ政教分離の原則を財政の面から裏付けようという趣旨です。また、後段では、公の支配に属しない慈善・教育・博愛事業に対する公金支出等の禁止も規定しています。
この趣旨には、3つの説が考えられます。

①公費濫用防止説:目的の公共性や慈善・教育・博愛事業といった名目で公費が濫用されやすいので、それを防ぐため

②自主性確保説:私的な事業に公の財政援助を行うと、公権力が本来自主的に運営されるべき事業に影響を及ぼすことになりかねないので、私的事業の自主性を確保するため

③公の中立性確保説:私的な教育事業等は特定の信念に基づくものであることが多いことから、公の財政援助が行われることで、特定の宗教や信念の助長につながることを防ぐため

 

Ⅷ.会計検査院

憲法44-8

  90条1項でいう国の収入支出の決算とは、一会計年度における国の収入・支出の実績のことです。決算制度を採用することで、国の予算に基づいて適正に国の収入・支出が行われているかを事後的に監督すべきことを明らかにしていると言えます。一会計年度とは、現行上、4月1日から翌年の3月31日までです。

  決算は、まず会計検査院の検査を経た上で、内閣がその検査報告を基に、次の会計年度で国会に提出します。

  会計検査院の組織や権限は、会計検査院法で定められ(2項)、3名の検査官から成る検査会議と事務総局によって構成されます。そして、検査官は、衆参両議院の同意を得たうえで内閣が任命し、その任免は天皇が認証することでなっています。

  国会は、90条に基づいて提出された決算を審査しますが、この審査はすでに行われた収入や支出が適正なものであったかを事後的に確認するものです。したがって、国会が決算を修正するということはあり得ません。

 

Ⅸ.財税状況の報告

憲法44-9

  91条は、財政状況も含めて国政全般について、内閣が国会に対して報告義務を負っていることを定めています。91条の趣旨は、財政状況について国民に対する報告義務を明らかにすることで、納税者である国民が、国の財政を監視できるようにしたものと言えます。

  財政状況の報告は、少なくとも1年1回、定期的に行われなければなりません。財政状況の最も基本的なものと言えば、毎会計年度の予算と決算です。

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