第43回 裁判所の権能

  司法権の最後は裁判所に与えられた権能です。まず、①最高裁判所の規則制定権、次いで裁判所に与えられた大きな権限である②違憲審査権――を解説します。

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Ⅰ.最高裁判所の規則制定権 

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  77条1項では、最高裁判所が一定の事項については規則を定めることができることを規定し、3項では、下級裁判所に関する規則の制定は、下級裁判所に委任できることを規定しています。そしてこれを最高裁判所の規則制定権と言います。

  この一定事項の規則とは、検察官や弁護士、訴訟関係人、裁判所の職員などを拘束する法規範のことです。
『ん…?』実質的な意味での立法作用であることに気付きましたね。このことは、国会中心立法の例外であると捉えてください。

  裁判所の規則制定権が認められている事項には、4つあります。

①訴訟に関する手続

②弁護士に関する事項

③裁判所の内部規則に関する事項

④司法事務処理に関する事項

  ①の訴訟に関する手続には、民事訴訟・刑事訴訟・行政訴訟はもちろん、狭義では訴訟手続ではない、非訟事件手続、調停手続、家事審判――なども含まれると理解されています。

しかし、憲法76条1項や79条に定められている下級裁判所の設置に関する事項や最高裁判所裁判官の定員・国民審査・定年などの事項はもとより、裁判所の組織や構成、管轄権などは、裁判所の規則で定めることはできません。 

  ②の弁護士に関する事項は、弁護士が直接、裁判所に関わる場合の事項のという意味です。裁判所には関係ない事項は弁護士法などで定められています。

  ③の裁判所の内部規律に関する事項とは、裁判官の執務時間や裁判所職員の人事など、内部の官吏や監督に関する事項のことです。

  ④の司法事務処理に関する事項とは、裁判事務に付随する、例えば法定を開く日時を決めることなどです。

これ以外の事項でも、法律で委任があれば新たに規則を制定することができることになっています。

 

  では、この裁判所の規則と法律の関係はどうなっているのでしょう? ここには2つの問題が存在します。
一つは、77条1項で裁判所規則で定めることができるとされている4つの事項を法律でも定めることができるか。
もう一つは、定めることができた場合に、規則と法律が一致しなかったら、どちらが優先するかということです。

  判例では、77条1項の裁判所規則で定めることができる事項は、法律でも定めることができることとなっています。そして、どちらを優先するかについては、①法律が優先するとする法律優位説、②規則が優先するとする規則優位説、③両者に優劣はなく「後法は前法を廃する」と言う一般原則に基づき、後で成立した規則なり法律なりを優先するとした同意説がありますが、この問題についての判例は存在せず、したがって疑問は疑問のまま残っています。 

裁判所規則の制定は、最高裁判所の裁判官会議で決められます。下級裁判所が最高裁判所から委任を受けた場合には、その下級裁判所の裁判官会議で制定されます。

また、裁判所の規則の拘束力は、傍聴人を含めた裁判所内には及びますが、裁判所関係を離れた一般市民関係まで拘束するものではありません。

裁判所職員の人事に関する権限など、司法行政監督権については、特に明文規定されていませんが、77条が裁判所における規則制定権を認めていることや、司法権の独立の確保を重要なポイントとしている憲法第6章自体の趣旨などから、司法行政監督権も裁判所自体に与えられていて、自主的な運営に委ねられていると理解されています。

 

Ⅱ.違憲審査権

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  違憲審査権とは、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限です。違憲審査権を裁判所に与えた趣旨は、憲法の最高法規性を、裁判所が行う違憲審査によって担保し、つまりは国民の憲法上の自由や権利の実現を保障しようというものです。

 

1)違憲審査制の採用

  立法府や行政府の制定した法規範や処分の合憲性を第三機関が判断する制度を違憲審査制と言いますが、一般に各国で採用されている違憲審査制は3つに分類できます。但し、近年では、3つの種類の間の違いがはっきりせず、区別が難しくなってきていると言われています。

①司法裁判所型:違憲審査のために特別の裁判所を置かず、通常の裁判所が、具体的な訴訟事件の中で、原則としてその解決に必要な限度で違憲審査を行います。日本、アメリカ合衆国、イギリス連邦諸国などで採用しています。

②憲法裁判型:通常の訴訟を扱う裁判所とは別の、違憲審査を行うための特別の裁判所を置き、具体的な訴訟とは無関係に、一般的・抽象的に違憲審査を行います。ドイツやオーストリア、イタリアなどで採用しています。

③政治機関型:裁判所ではなく、政治的な機関が違憲審査を行います。フランス第五共和制などがこれに当たります。

 

2)日本の違憲審査制の性質

  それでは、日本の違憲審査制の性質を見てみましょう。

  一般的に違憲審査の対象を見てみると、①一般的・抽象的な違憲審査も行う抽象的審査制と、②具体的な訴訟事件の解決に必要な限度のみで違憲審査を行う付随的審査制――とに大別できますが、日本の違憲審査制は②の付随的審査制を採っていると言われています。

  その根拠は3つ挙げられます。

①沿革的に見て、日本の違憲審査制はアメリカ合衆国の違憲審査制に倣ったものである。

②司法権とは具体的な争訟事件を解決する作用であり、違憲審査制について定めた81条は、第6章司法の章に置かれている。

③抽象的審査は、伝統的に司法権の範囲を超えた特殊な作用であると考えられてきたので、もし憲法がそれを採用したのなら、その旨を明記するか何らかの手続き規定を置くはずなのに、そのような規定は置かれていない。

以上によると考えられています。

 我が国の違憲審査制度について考察できる判例に「警察予備隊違憲訴訟」があります。

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  判例では、付随的審査制説を採用したのか否かは明示していませんが、抽象的審査制を否定している以上、付随的審査制を採用していると考えられています。

  また、違憲審査権を行使する主体は最高裁判所であることは、81条から明らかですが、下級裁判所も違憲審査権を有しています。
その理由は、81条の条文は、最高裁判所は違憲審査を行う終審裁判所と定めているからです。つまり、下級裁判所が前審である違憲審査を行うことを予定しているのです。
また、判例も下級裁判所の違憲審査を認めています【食糧管理法違反事件:最判昭25.2.1】。

 

3)違憲審査の対象

  81条では違憲審査の対象を一切の法律、命令、規則又は処分としているので、すべての国内の法規範と国家や地方公共団体による法規範が違憲審査の対象であることは間違いないのですが、国内法規とは言えない条約がその対象であるかは、議論のあるところです。

  この問題の判例としては、日米安全保障条約の合憲性が論点とされた「砂川事件」があります。

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  判例では、日米安全保障条約の合憲性は、高度に政治的な問題であるから違憲審査の対象にならないとしたもので、条約だから違憲審査の対象にならないとは言っていません。

その意味で、条約も少なくとも理論的には違憲審査の対象になり得ると考えられています。言い換えれば、一見極めて明白に違憲無効であると認められる条約は違憲審査の対象であるということですが、現実には、そのような条約が締結されることはまず考えられないと言えます。

なお、この判例は、76条の統治行為論を採用した判例としても出題されることがあります。

 

  次に立法不作為が違憲審査の対象となるかどうかが問われることがあります。立法不作為とは、憲法上立法することが求められているのに、国会が法律を制定しない、あるいは一応は制定したけれど、憲法の要求を充分に満たす内容となっていないことです。

  一般的には、立法不作為も理論的には合憲・違憲の判断が可能な行為である限り、違憲審査の対象になると考えられています。

ただし、具体的な訴訟として立法不作為を問うことは、非常に難しいと言えます。例えば、「国会が立法することを義務付ける」という形で訴訟を起こせば、裁判所が立法行為に立ち入ることになり、憲法41条に反することになるので事実上不可能です。そのため、国会の立法不作為の合憲性を争うには、「国会が立法しないことは国会の不法行為であって、それにより損害を受けるから、国家賠償法に基づいて国家賠償を請求する」という国家賠償請求訴訟をとらざるを得ないことになります。

具体例を挙げると、「在宅投票制度廃止事件(最判昭60.11.21)」は、在宅投票制度が廃止された後、それに代わる制度を法律で制定しなかったため、国会の立法不作為は違憲・違法として賠償請求がなされましたが、判例では、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにも関わらず国会があえて当該立法を行うというような簡単には想定できないような例外的な場合でない限り、国家賠償法上違法の評価はされないとしています。

この判例は国会の立法不作為の合憲性を争う手段を事実上閉じてしまったという批判を浴びました。
最近では、「立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにも拘らず…」という例外的な場合を柔軟に解釈して、国会の不作為行為が国家賠償法上違反であると判断された下級裁判判例【ハンセン病国家賠償訴訟:熊本地判平13.5.11】や最高裁判例【在外選挙制度不備事件:最判平17.9.14】などにより、国家賠償請求訴訟の形で国会の不作為の合憲性を争う途が開かれつつあります。

 

4)違憲審査基準

  裁判所が法令や処分の違憲性を判断する場合の基準を違憲審査基準と言います。違憲審査基準は憲法や法律などで定められているのではなく、これまでの判例や学説の積み重ねの中から生まれてきました。

  判例はどんな審査基準をとっているかは、人権の勉強の際、随時触れてきましたが、復習を兼ねて、次にまとめました。

学説は、二重の基準論を基礎に①精神的自由を規制する法令等についての違憲審査基準と、②経済的自由を規制する法令等についての違憲審査基準――とを大別して考えています。

 

★精神的自由を規制する法令等についての違憲審査基準

➊文面上無効の基準:問題となっている法令の文言だけから違憲判断を下すもの

➋明白かつ現在の基準:規制対象とされている表現行為が、実質的な害悪を引き起こす危険が明らかな場合以外は、その法令は違憲とする

➌LRAの基準:より制限が穏やかな他の手段によっても同じ目的を達成できるかどうかという視点から合憲性を判断し、他の手段があれば違憲、なければ合憲とする基準

 

★経済的自由を規制する法令等についての違憲審査基準

➊厳格な合理性の基準:立法目的が重要であること、目的と手段との間に実質的な関連性が認められればその法令等は合憲とするもの

➋明白性の原則:規制が著しく不合理であることが明白な場合に限り、その法令等を違憲とするもの

 

5)実際の処理

  違憲判決後の処理については、規定されていません。しかし、今までに違憲判決が行われたケースでは、多くの場合、速やかに国会で法令の改正が行われています。また、民法の尊属殺重罰規定違憲判決は、違憲判決後20年以上も改正を怠った事件でしたが、その間は検察がその罪での起訴をしないという運用が定着していたので、違憲判決の効力の解釈を巡っての問題が生じたケースはありませんでした。

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