第42回 裁判所の組織と裁判官に与えられた身分保障

  裁判所2回目の今回は、①裁判所の組織、②裁判官の身分保障、③裁判の公開――について解説していきます。

憲法42-1

 

Ⅰ.裁判所の組織

憲法42-2

  裁判所は、憲法79条で定める最高裁判所と80条で定める下級裁判所に大別されます。最高裁判所は、79条1項に定められるとおり、長たる裁判官=最高裁判所長官と、法律で定める員数のその他の裁判官で構成されます。
現在の裁判所法では、その他の裁判官は14名とされているので、最高裁判所は15名の裁判官で構成されていると言えます。

  最高裁判所の審理・裁判は、大法廷と小法廷のいずれかで行われますが、大法廷は15名全員の裁判官で、小法廷は5名の裁判官で構成されます。

  最高裁判所の長官は憲法6条2項で、内閣が指名し天皇が任命することが規定されています。その他の裁判官は、内閣が任命することが79条1項に規定されています。長官に対する天皇の任命は形式的なものなので、最高裁判所の裁判官の実質的な任命権は、すべて内閣にあることになります。
憲法がこのような仕組みにしたのは、議院内閣制の下、国民を代表する国会を背景にした内閣が、最高裁判所の組織に一定の影響を与えることで、権力分立における均衡を維持しようとする意図がくみ取れます。

  79条の2~4項は、最高裁判所裁判官に特有の罷免制度として国民審査制度を規定しています。この国民審査制度の趣旨は、内閣の恣意的な任命による弊害を防ぐ目的で、最高裁判所裁判官の任命に国民によるコントロールを及ぼすためです。

  国民審査は、任命された個々の裁判官について、まず、任命後最初の衆議院議員総選挙の際に行われ、その後は、10年が経過するごとに、初めて行われる衆議院議員総選挙の際に行われます。その方法は、79条4項を受けて制定されている最高裁判所裁判官国民審査法に細かく規定されています。その方法は、審査の対象となる裁判官の氏名が記載された投票用紙に、投票者が罷免を求める場合には×印をつけるというもので、白票は積極的に罷免を求めていないとして罷免不可として扱われます。

その結果、×印の投票が過半数を超えた場合には、その裁判官は罷免されることになります(3項)。ただし、過去に国民審査で罷免された裁判官はいません。

  最高裁判所裁判官には任期の規定がありませんが、79条5項には定年があることが規定されています。そして、裁判所法によれば、70歳が定年です。

  また、6項では、最高裁判所裁判官は、定期的に相当額の報酬を受けることと、この報酬は減額されないことを規定しています。減額されないとは、例え、病気で欠勤しても、懲戒処分を受けても減給処分は受けないということです。この趣旨は、裁判官の身分を収入の面からも保障することで、裁判官の職権の独立を強化することにあります。

 

  次に、下級裁判所について見てみます。
裁判所法では、下級裁判所の裁判官として、①高等裁判所長官、②判事、③判事補、④簡易裁判所判事補――の4種類を規定しています。これらの裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿に従って、内閣が任命することを憲法80条1項で定めています。高等裁判所長官については、特に天皇の認証事項にもなっています。内閣の任命とは、上記4種類の裁判官のいずれに就かせるかまでは行わず、具体的にどこの裁判所に配置するかは、司法行政の一環として最高裁判所が行います。

  憲法が下級裁判所裁判官について最高裁判所の指名と内閣の任命を求めた趣旨は、①内閣による恣意的・政治的な任命を防ぎ、②裁判所内部だけの判断により私法が独善に陥ることを防ぐことにあります。

 ここでは、最高裁による指名した者の任命を内閣が拒んだ場合に問題がありそうに思えますが、かつてそのような例はないとされています。

 下級裁判所裁判官の任期は、80条1項に10年と規定されていますが、同時に再任制度も認めています。

 下級裁判所裁判官の定年は、裁判所法で、原則65歳、簡易裁判所裁判官のみ70歳と定めています。また、報酬については最高裁判所裁判官と同じく、定期に相当額の報酬を受けること、報酬が在任中減額されないことが保障されています。

 

Ⅱ.裁判官の身分保障

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 78条では、裁判官の職権の独立をより実効性のあるものにするために、①一定の場合でなければ罷免されないこと、②行政機関は裁判官の懲戒処分を行えないこと――を定めています。

 罷免とは、本人の意思に反して免官させることを言いますが、裁判官が罷免されるのは次の場合だけです。 

   ①裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合

   ②公の弾劾による場合

   ③国民審査の結果、罷免を可とされた場合(最高裁判所裁判官のみ)

①の職務を執ることができない場合とは、裁判官の職務を遂行することができない程度の身体の故障や精神上の能力の喪失があって、相当長期に渡って職務が行えないことが確実に見込まれる場合のことを言います。一時的に具合が悪くても該当しません。また、この判断は、裁判で判断されますが、この裁判を「分限裁判」と呼び、裁判官分限法という法律が制定されています。

②の公の弾劾とは、弾劾裁判所による裁判(64条)のことです。64条で解説しましたが、復習を含めて罷免事由をもう一度確認すると次の2つです。

   ①職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき

   ②その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき

このほか、現行の裁判所法には、上記以外に裁判官の任命欠格事由を2つ規定しています。

   ③法律上一般の官吏に任命することができない者

   ④禁錮以上の刑に処せられた者

③、④の場合すぐに失職するのか、改めて弾劾裁判を行うのかは明記されていません。

憲法42-4

 

Ⅲ.裁判の公開

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 82条1項で規定されているのは、裁判公開の原則です。裁判の公平さとそれに対する国民の信頼を確保するというのが基本的な目的ですが、近年では、国民の知る権利の観点からも重要な原則と言えます。

 条文中の「対審」とは、裁判官の面前で当時者が口頭でそれぞれの主張を述べる審理手続のことで、具体的には①民事訴訟における口頭弁論手続、②刑事訴訟における公判手続――のことです。

 また、「公開」とは、広く国民一般への公開を意味し、具体的には、①裁判を傍聴する自由、②裁判を報道する自由――を意味します。

 2項では、裁判公開の例外を定めています。裁判官が全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した時には、対審は非公開とすることができます。つまり、判決を非公開とすることはできません。

 この例外として、2項の後段に3つの事柄を挙げています。

   ①政治犯罪

   ②出版に関する犯罪

   ③憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件

 ①は、歴史上、特に不公正な裁判がなされる危険性が強いため、②は、表現の自由の重要な手段である出版が不公正な裁判によって萎縮されないよう、例外なく公開とされることになっています。

 ③は、ちょっと分かりにくい表現ですが、言い換えると、憲法が保障する国民の権利に対して法令が規制をしている場合に、その規制に違反したことが犯罪として起訴された刑事事件のことです。表現の自由に対する規制として名誉棄損罪があったことを覚えていますか? 名誉棄損罪で起訴された刑事事件がこれに該当します。

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