第41回 司法権とその限界

  今回から3回にわたって司法権について、①司法権とその限界、②裁判所の組織と裁判官に与えられた身分保障、③裁判所の権能――と解説していきます。

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  司法権1回目の今回は、①司法権の概念、②司法権の限界、③司法権の帰属、④司法権の独立――に分けて見ていくことにしましょう。

 

Ⅰ.司法権の概念

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  76条1項は、司法権は最高裁判所と下級裁判所にあると規定しています。これは、立法権が国会にあるとする41条、行政権が内閣にあるとする65条とともに、三権分立を明らかにしたものですが、司法権とはどのような権限なのでしょう? 
憲法には司法権について明示されていませんが、司法権とは具体的な争訟について法を適用し、宣言することでこれを裁定する国家の作用と理解されています。裁判所法もこの定義を基に、裁判所は一切の法律上の争訟を裁判すると規定しています。

  では、具体的な争訟で法を適用し裁定されるものとは何なのか? 判例や通説では、法律上の争訟の要件を2つ挙げています。

①当事者間の具体的な権利義務または法律関係の存否に関する紛争

②法律の適用によって終局的に解決できるもの

  具体例を挙げると、自衛隊の前身である警察予備隊を設ける際、当時の日本社会党代表が最高裁判所に、違憲確認訴訟を提起しましたが、最高裁は「具体的な事件が生じていないため司法権を発動できない」として、訴えを却下しています【警察予備隊違憲訴訟:最判昭27.10.8】。

  また、法律上の争訟がよく問題となる場合に、宗教団体の内部的な争いがあります。その例として、ある宗教団体の本尊が偽物であるとして寄付金の返還を求めた「板まんだら事件」を紹介します。

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  判例では、寄付金の返還請求は具体的な権利または法律関係の存否についての争いですが、それを判断する前提として、宗教上の教義や信仰などの内容に関する判断が避けられないものなので、法律の適用で終局的に判断できないとして、法律上の訴訟性を否定しています。

 

Ⅱ.司法権の限界

  Ⅰで解説したように、司法権の対象は、法律上の争訟(当事者間の具体的な争訟であり、法令の適用によって終局的に解決できるもの)ですが、法律上の争訟ならすべて司法権が及ぶのでしょうか? 司法権の限界はないのでしょうか? 実は、司法権が及ぶ範囲には次の4つの場合で限界があるとされています。

①立法権との関係からくる限界

②行政権との関係からくる限界

③統治行為論からくる限界

④部分法理からくる限界

 

1)立法権との関係からくる限界

  立法権との関係では、次の2つのことに司法権が及びません。

①法律の制定などにおける議事手続に関する事柄

②議院の懲罰権の行使

  ①の法律制定の議事手続とは、例えば、議決の方法が適法であるかどうか――などのことです。

その理由は、権力分立の理念から議院の自律性を尊重すべきと判断されているからです。このような立法に関して憲法で国会に委ねられた裁量権のことを立法裁量と言います。判例では、法律の合憲性が問われる場面で、この立法裁量を重視し、立法裁量を著しく逸脱した場合に違憲と判断することが多いので、覚えておくと役立ちます。

 

2)行政権との関係からくる限界

  憲法上では、行政機関の裁量に委ねられている事柄には、司法権が及びません。行政機関の裁量に委ねられている事柄とは、具体的には内閣総理大臣による国務大臣の任免や、最高裁判所裁判官の任命などです。

  このほか、行政法で一定の範囲で行政機関に自由裁量を認めています。その範囲の事柄に対しても司法権は及びません。

 

3)統治行為論からくる限界

  これを語る場合に有名な事件に「苫米地事件」があります。衆議院の内閣不信任決議がないにもかかわらず、内閣が一方的に行った衆議院の解散について、議員が違憲訴訟を起こした事件です。

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  判例では、衆議院の解散のように直接国会統治の基本に関する政治性の高い国家行為は、それが法律上の争訟に当たっても裁判所の審査の範囲外であるとしています。そしてその判断は、主権者である国民に対して政治的責任を負う内閣と国会、つまり、国民に委ねられていると言っているのです。

  上記のように法律上の争訟として司法審査の対象となり得る行為でも、高度な政治性がある場合には司法審査の対象から除外されるとする理論を統治行為論と言います。その理論の根拠は、国民主権の下での三権分立や、民主主義的責任は負わない司法権の限界と言われています。

  今までに統治行為論から司法判断を控えた事件は、上記の「苫米地事件」と「砂川事件(最判昭34.12.16)」の2件だけです。

*【砂川事件】アメリカ空軍砂川基地の拡張に反対するデモ隊が、基地内に侵入した行為が日米安保条約に基づく刑事特別法違反として起訴された事件。39回で詳しく解説します。

 

4)部分社会の法理からくる限界

  次の「共産党袴田事件」を見てみましょう。共産党の幹部が党から除名された後に、住んでいた党所有の住居の明渡しを求められた事案です。

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  判例では、政党の結社としての自主性に鑑みると、政党の内部的自立に関わる行為は、法律に特別の規定がない限り尊重すべきで、政党が党員に対して下した処分についても、それが一般市民秩序と直接の関係を有しない内部的な問題ならば、裁判所の司法審査は及ばないとしています。また、一般市民秩序と直接関係する場合であっても、政党の処分が適正な手続きに則って行われたかどうかについてのみ司法審査権が及ぶとも言っています。

  ただし、部分社会の法理を認めることは、一種の治外法権を認めることとも言えます。さらに、この法理が適用される団体や組織と適用されない団体や組織の区別の基準は何か――など、疑問が残る理論との意見もあります。

 

Ⅲ.司法権の帰属

  憲法76条1項により、すべて司法権は、最高裁判所とその系列下の下級裁判所にのみ帰属します。下級裁判所は現行の裁判所法で①高等裁判所、②地方裁判所、③簡易裁判所、④家庭裁判所――の4つが定められています。

  憲法では、司法権が最高裁判所と下級裁判所にのみ帰属するという原則の例外として、①議員資格争訟の裁判(55条)、②弾劾裁判所による弾劾裁判(64条)――の2つを認めています。

  2項の前段により、特別裁判所の設置は認められていません。特別裁判所には、2つの要件があります。

①特定の地域や身分・事件などを扱う

②通常の裁判所の系列から独立した権限を持つ

  例えば、家庭裁判所は家事事件や少年事件と言った特定の事件を扱いますが、通常の裁判所の系列に属していますから特別裁判所ではありません。特別裁判所の例としては、戦前の軍法会議などが挙げられます。ただし、特別裁判所の例外として弾劾裁判所が現行の憲法で認められています。

  特別裁判所の存在を認めない理由は、平等原則や法解釈の統一の観点からと言われています。

  76条2項後段は、行政機関が終審としての裁判を行うことを禁じています。この趣旨も平等原則や法解釈の統一と言えるのですが、反対解釈をすれば、前審としてなら行政機関による裁判が許されることになります。

  司法権って裁判所のみじゃなかったの? と疑問に感じた方がほとんどと思います。前審としてなら裁判が許されることを言い換えれば、通常の裁判所に上訴することが前提なら、行政機関が裁判できるということです。実際に、独占禁止法に基づく公正取引委員会の審決や、行政不服審査法に基づく行政機関の採決などが認められています。

 

Ⅳ.司法権の独立

  司法権の独立には2つの内容があります。

①裁判官の職権の独立:個々の裁判官がその職務を行うに当たって、法以外の何ものにも拘束されず、独立して職権を行う

②司法府の独立:全体としての裁判所も他の国家機関から独立して自主的・自律的に活動する

  この司法権の独立は、海外諸国の憲法で採用されている理念ですが、我が国では76条3項に裁判官の職権の独立を明らかにしています。司法府の独立については明示した条文はありませんが、裁判官の司法府の職権の独立の前提は、司法府の独立と考えられています。

  このように保障された司法権の独立ですが、例えばマスメディアによる判決批判などは許されています。これは人権の一つ、表現の自由の重要な一環と言えますので、直接裁判に圧力を加えたものでない限り、裁判官の職権の独立の侵害を理由に禁止することはできません。

  また、議院の国政調査権の中にも裁判に関する調査権が含まれています。でも、あくまで裁判制度の在り方など、一般的な問題解決のために行使されるものに限られています。個々の事件について具体的な訴訟指揮や判決内容についての批判に及ぶことはできません。

  さらに、上級裁判所から下級裁判所に対する監督などの内部圧力についても禁止されています。

 

  最後に、一般市民を裁判に直接参加させる陪審制について少し触れてみたいと思います。陪審制には①刑事事件において起訴するかどうかを判断する大陪審と、②民事事件・刑事事件を問わず、事実認定と法の適用を行う小陪審――とがあります。

  大陪審制は、起訴の可否を決めるだけなので、裁判官の職権の独立に触れるものではありません。一方、小陪審制は、陪審員による事実認定が裁判官を拘束することになり違憲に当たる可能性も否定できません。

  ところで、これらと似て非なるものに、一般国民の中から選出された参審員が、裁判官と合議体を構成して裁判を行う参審制があり、平成21年から始まった我が国の裁判員制度は、参審制の一種です。

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