第12回 幸福を追求する権利とは

  今回からは、基本的人権の一つひとつの権利について、判例を見ながら解説していきます。まず手始めは、幸福追求権です。

行政書士講座

この幸福追求権は、第10回でまとめた基本的人権の表のうちの包括的基本権に含まれる権利です。日本国憲法では第13条に規定され、1776年のアメリカ人権宣言の「life, liberty, pursuit of happiness」を基につくられたものですが、そのアメリカ人権宣言も、実はイギリス人政治学者のジョン・ロックの「国民個人個人を一人の人間として尊重し、そのために国家権力に歯止めをかけていくべき」という自然権思想を基にしたもので、幸福追求権は基本的人権の中でも基本中の基本となる重要な人権の一つと言えます。

憲法12-1

  また、第13条は、日本国憲法の根本的価値である「個人の尊厳、個人の尊重」を少し具体化させた形でもあります。

第13条の内容をもっと分かりやすく言えば、「幸福の概念は人それぞれ違うし、一人ひとりが自らの意思で決定するものだから、国家は、すべての『幸福の権利』そのものの保障はできない。でも、一人ひとりの幸福を追求しようする権利については国家が制限するものではないので、幸福を追求する権利は『公共の福祉』の範囲内で諸条件・手段を整備して国民に保障する」となります。

『幸福の権利』と『幸福を追求する権利』の違いに注意して、もう一度読み直してみましょう。

 

  さて、現代の情報化社会の進歩によって、憲法を制定したころには考えられないような人権侵害が行われるようになってきました。インターネットの普及などで、規制をかけなければ、東京に住んでいる方の個人情報が世界中のどこでも閲覧できる社会です。例えば、現代は、犯罪の経歴などの個人が生活していく上でマイナスとなる情報も、写真付きで世界中を駆け巡る世の中になってしまった――と言えます。

そこで、憲法では、第13条の幸福追求権をその根拠として、個人が一人の人間としての人格を認められ、生存するために、このような新しい人権を保障することにしたのです。

以下に、新しい人権の中でも最高裁判所の法廷で裁かれた事件を解説します。行政書士試験でも取り上げられることが多いので、しっかり覚えてください。

 

Ⅰ.肖像権

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  この事件は、「警察官が証拠保全のために、本人の意思に反して、令状なしで個人の容貌等を撮影したことは、肖像権(憲法第13条)の侵害に当たるのではないか」が争点となった事件です。この事件では、第13条を根拠として、肖像権(肖像権と言う言葉は判例では使われていません)を人権として認めている点に注意してください。ただし、この場合は、公共の福祉のために、撮影の必要性と緊急性があったので、合憲という結審が下りました。

 

Ⅱ.プライバシー権

  プライバシー権は、以前「私生活をみだりに公開されない権利」と定義されてきました。
しかし、情報化社会の進展で、公権力や大企業などに個人情報が集まることになったことから、単に私生活を公開されないことだけでなく、自分の情報は自分でコントロールできることが必要になってきました。

  そこで現在では、プライバシー権は「自己に関する情報をコントロールする権利」と定義されています。

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  これは、区役所が弁護士の照会に安易に応じたことが違憲とされた事件です。この判例を通して、国や都道府県、市町村などの公権力は、国民の前科などをみだりに公表してはならないということが明確になったという点がポイントです。

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Ⅲ.自己決定権

  自己決定権とは、個人が自分として自分らしく生きていくために重要である個人的なことは、公権力に干渉されず、自分で決定できる――という権利のことです。

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  1992年に東大付属病院で起きた事件で、患者から信教上の理由で輸血をしないでほしいという意思表示を受けたいたにもかかわらず、患者の了解を得ないまま、担当医が手術の際に一方的に輸血をした行為をめぐる民事訴訟事件で、最高裁まで争われました。

結論としては、患者が輸血を受けることを拒む権利が認められたのです。

  この事件は、判例として自己決定権の解釈としての先例となったばかりでなく、日本において、インフォームド・コンセントが注目されるきっかけになった、医学界でも重要な事件です。

  ここでもう一度、ページの頭に戻って、条文を読み返してみましょう。上記の3例は、いずれも第13条の幸福追求に対する国民の権利に該当します。さて、次回は、人権としてのもう一つの柱「法の下の平等=平等権」を解説します。

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