第11回 私人間の基本的人権について

  今回は、判例を読みながら、私人間の人権について身近なものにしていきたいと思います。判例を読むときには、常に基本的人権の何に抵触しているのかを考えて読むことが大事になります。前回のおさらいの意味も含めて、読み進めてください。

行政書士講座

前回、憲法で規定されている基本的人権の保障とは、公権力が国民の権利や自由の侵害を防ぐためのものと学びましたね。そして、私人間(しじんかん)の人権侵害行為は、民法の運用を通して、憲法の規定を間接的に適用することになるとも解説しました。

このことについて、もう少し詳しく解説し、実際に行政書士試験によく出題される判例を読んでみることにします。

 

  法は、大きく分けて、国家の内部または国家と国民の関係を規定した公法と、私人と私人の関係を規定した私法があります。私人とは、個人に限らず、会社や民間の組織などの法人も含みます。憲法が私人のことをいろいろ規定していないのは、規定すると自由経済の原則である「私的自治の法則=私人の活動は基本的に自由にさせる」というものを侵害してしまう危険性があると考えられるからです。

公法の代表格が憲法、私法の代表格は民法で、民法は私人どうしの契約や、家族の財産の相続などについて規定しています。また、企業について規定した商法なども私法に入ります。
 

さて、憲法界では有名な事件に「三菱樹脂事件」があります。ある人が大学卒業後、4月時点で仮採用になっていた企業で試用期間を過ごし、6月になっていざ本採用される…と思いきや、この人の学生運動の履歴が発覚して本採用されなかった――という事件です。

この人は「この会社の行為は、憲法第19条が規定する『思想・良心の自由』に反しているし、信条によって差別してはならないとする憲法第14条にも反している。内面的な思想で本採用するかどうか判定するのは非合理な差別だ」として、裁判を起こしました。

憲法11-1

  つまり、憲法は私人間の関係については直接関係しませんよ、ということです。私人(企業)が誰を採用しようがしまいが、それは国が関与することではない、ということなのです。

 でも、憲法の人権に対する規定がぜんぜん私人間に適用されなかったら、私たちは困りますね。

就業規則がむちゃくちゃでも、労働者はそれに従わなくてはなりません。そうなったら国民は企業の言いなりで、ぜんぜん人権が確保されないですよね。

  そこで、民法を使って憲法理念を「間接適用」することとしました。これを間接適用説と言います。 

憲法11-2

民法第90条を見てみましょう。

「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とす」

ここで言う法律行為とは、売買契約や借金の契約、働くための契約就業規則の作成などで、公の秩序や善良の風俗に反する契約は無効だ、と定めているわけです。そして、憲法の人権規定は公の秩序と言えますので、間接的に憲法に謳われている人権規定が採用される仕組みになっているのです。

  そして、これを具体的に適用したのが「日産自動車事件」の判決です。ある人が勤める会社には、定年年齢を男子60歳、女子55歳、という就業規則がありましたが、定年退職を命じられた女子社員らは、これは民法90条に違反している。憲法秩序では法の下の平等が規定されているのだからこの規則は「公の秩序」に反している――と訴えたのです。

憲法11-3

  地裁、高裁と原告(訴えた人)が勝利し、最高裁の第三審までいった裁判は、1981年、原告勝利で終わりました。定年年齢差別をした就業規則が民法90条に違反していることが認められ、これを契機に民法を使った憲法人権規定の間接適用説は定着しました。また、この事件をきっかけに、その後も女子の昇進差別や賃金格差などを定めた就業規定は無効であるという判決がつぎつぎと下るようになりました。

  そのほかに覚えてほしい判例を記して、今回の講義は終了します。国家と私人の関係を規定している憲法について、少し理解できたでしょうか…? 

憲法11-4

 

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